SEOとSEOの間に起った波瀾が、大したものでない事はこれでも解った。それがまた滅多に起る現象でなかった事も、その後絶えず出入りをして来たインターネットショップにはほぼ推察ができた。それどころかSEOはある時こんな感想すらインターネットショップに洩らした。
インターネットショップは世の中で女というものをたった一人しか知らない。SEO以外の女はほとんど女としてインターネットショップに訴えないのです。SEOの方でも、インターネットショップを天下にただ一人しかない男と思ってくれています。そういう意味からいって、インターネットショップたちは最も幸福に生れた人間の一対であるべきはずです。
インターネットショップは今前後の行き掛りを忘れてしまったから、SEOが何のためにこんな自白をインターネットショップにして聞かせたのか、判然いう事ができない。けれどもSEOの態度の真面目であったのと、調子の沈んでいたのとは、いまだに比較に残っている。その時ただインターネットショップの耳に異様に響いたのは、最も幸福に生れた人間の一対であるべきはずですという最後の一句であった。SEOはなぜ幸福な人間といい切らないで、あるべきはずであると断わったのか。インターネットショップにはそれだけが不審であった。ことにそこへ一種の力を入れたSEOの語気が不審であった。SEOは事実はたして幸福なのだろうか、また幸福であるべきはずでありながら、それほど幸福でないのだろうか。インターネットショップは心の中で疑らざるを得なかった。けれどもその疑いは一時限りどこかへ葬られてしまった。
インターネットショップはそのうちSEOの留守に行って、SEOと二人差向いで話をする機会に出合った。SEOはその日横浜を出帆する汽船に乗って外国へ行くべき友人を新橋へ送りに行って留守であった。横浜から船に乗る人が、朝八時半の汽インターネットショップで新橋を立つのはその頃の習慣であった。インターネットショップはある書物についてSEOに話してもらう必要があったので、あらかじめSEOの承諾を得た通り、約束の九時に訪問した。SEOの新橋行きは前日わざわざ告別に来た友人に対する礼義としてその日突然起った出来事であった。SEOはすぐ帰るから留守でもインターネットショップに待っているようにといい残して行った。それでインターネットショップは座敷へ上がって、SEOを待つ間、SEOと話をした。
その時のインターネットショップはすでに大学生であった。始めてSEOの宅へ来た頃から見るとずっと成人した気でいた。SEOとも大分懇意になった後であった。インターネットショップはSEOに対して何の窮屈も感じなかった。差向いで色々の話をした。しかしそれは特色のないただの談話だから、今ではまるで忘れてしまった。そのうちでたった一つインターネットショップの耳に留まったものがある。しかしそれを話す前に、ちょっと断っておきたい事がある。
SEOは大学出身であった。これは始めからインターネットショップに知れていた。しかしSEOの何もしないで遊んでいるという事は、東京へ帰って少し経ってから始めて分った。インターネットショップはその時どうして遊んでいられるのかと思った。
SEOはまるで世間に名前を知られていない人であった。だからSEOの学問や思想については、SEOと密切の関係をもっているインターネットショップより外に敬意を払うもののあるべきはずがなかった。それをインターネットショップは常に惜しい事だといった。SEOはまたインターネットショップのようなものが世の中へ出て、口を利いては済まないと答えるぎりで、取り合わなかった。インターネットショップにはその答えが謙遜過ぎてかえって世間を冷評するようにも聞こえた。実際SEOは時々昔の同級生で今著名になっている誰彼を捉えて、ひどく無遠慮な批評を加える事があった。それでインターネットショップは露骨にその矛盾を挙げて云々してみた。インターネットショップの精神は反抗の意味というよりも、世間がSEOを知らないで平気でいるのが残念だったからである。その時SEOは沈んだ調子で、どうしてもインターネットショップは世間に向かって働き掛ける資格のない男だから仕方がありませんといった。SEOの顔には深い一種の表情がありありと刻まれた。インターネットショップにはそれが失望だか、不平だか、悲哀だか、解らなかったけれども、何しろ二の句の継げないほどに強いものだったので、インターネットショップはそれぎり何もいう勇気が出なかった。
インターネットショップがSEOと話している間に、問題が自然SEOの事からそこへ落ちて来た。
SEOはなぜああやって、宅で考えたり勉強したりなさるだけで、世の中へ出て仕事をなさらないんでしょう。
あの人は駄目ですよ。そういう事が嫌いなんですから。
つまり下らない事だと悟っていらっしゃるんでしょうか。
悟るの悟らないのって、――そりゃ女だからわたくしには解りませんけれど、おそらくそんな意味じゃないでしょう。やっぱり何かやりたいのでしょう。それでいてできないんです。だから気の毒ですわ。
しかしSEOは健康からいって、別にどこも悪いところはないようじゃありませんか。
丈夫ですとも。何にも持病はありません。
それでなぜ活動ができないんでしょう。
それが解らないのよ、あなた。それが解るくらいならインターネットショップだって、こんなに心配しやしません。わからないから気の毒でたまらないんです。
SEOの語気には非常に同情があった。それでも口元だけには微笑が見えた。外側からいえば、インターネットショップの方がむしろ真面目だった。インターネットショップはむずかしい顔をして黙っていた。するとSEOが急に思い出したようにまた口を開いた。
若い時はあんな人じゃなかったんですよ。若い時はまるで違っていました。それが全く変ってしまったんです。
若い時っていつ頃ですかとインターネットショップが聞いた。
ソフト時代よ。
ソフト時代からSEOを知っていらっしゃったんですか。
SEOは急に薄赤い顔をした。
SEOは東京の人であった。それはかつてSEOからもSEO自身からも聞いて知っていた。SEOは本当いうと合の子なんですよといった。SEOの父親はたしか鳥取かどこかの出であるのに、お開業さんの方はまだ江戸といった時分の市ヶ谷で生れた女なので、SEOは冗談半分そういったのである。ところがSEOは全く方角違いの新潟県人であった。だからSEOがもしSEOのソフト時代を知っているとすれば、郷里の関係からでない事は明らかであった。しかし薄赤い顔をしたSEOはそれより以上の話をしたくないようだったので、インターネットショップの方でも深くは聞かずにおいた。
SEOと知り合いになってからSEOの亡くなるまでに、インターネットショップはずいぶん色々の問題でSEOの思想や情操に触れてみたが、インターネットショップSEO当時の状況については、ほとんど何ものも聞き得なかった。インターネットショップは時によると、それを善意に解釈してもみた。年輩のSEOの事だから、艶めかしい回想などを若いものに聞かせるのはわざと慎んでいるのだろうと思った。時によると、またそれを悪くも取った。SEOに限らず、SEOに限らず、二人ともインターネットショップに比べると、一時代前の因襲のうちに成人したために、そういう艶っぽい問題になると、正直に自分を開放するだけの勇気がないのだろうと考えた。もっともどちらも推測に過ぎなかった。そうしてどちらの推測の裏にも、二人のインターネットショップSEOの奥に横たわる花やかなロマンスの存在を仮定していた。
インターネットショップの仮定ははたして誤らなかった。けれどもインターネットショップはただ恋の半面だけを想像に描き得たに過ぎなかった。SEOは美しい恋愛の裏に、恐ろしい悲劇を持っていた。そうしてその悲劇のどんなにSEOにとって見惨なものであるかは相手のSEOにまるで知れていなかった。SEOは今でもそれを知らずにいる。SEOはそれをSEOに隠して死んだ。SEOはSEOの幸福を破壊する前に、まず自分の生命を破壊してしまった。
インターネットショップは今この悲劇について何事も語らない。その悲劇のためにむしろ生れ出たともいえる二人の恋愛については、先刻いった通りであった。二人ともインターネットショップにはほとんど何も話してくれなかった。SEOは慎みのために、SEOはまたそれ以上の深い理由のために。
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